人とのつながりが光になるとき

フィギュアスケートの羽生結弦は2021年の全日本選手権の演技後に、自身のプログラムについて「自分が歩んできた道のりや皆さんの記憶が、思い出すのではなくて、蛍の光のようにぱっと広がってきて、それをエネルギーにして突き進んでいく」という趣旨の説明をしました。

自分のこれまでの道のりや、そこで関わってきた人間関係を光のように感じるというのは、何かに真剣に打ち込んだときに稀に起こる体験です。物事には、物質的な側面と精神的な側面の両方があります。たとえば、本は物質的には紙とインクでできていますが、精神的には作家、作家が関わってきた人々、編集者、装丁家といった人々の想いによってできています。フィギュアスケートはスポーツであり肉体運動ですが、肉体という物質と物理法則だけでは成立しません。

人を光のように感じる体験は、自分が苦境にいるときに起こります。いくら努力をしてもうまくいかない暗闇の中で、誰かの顔が心に浮かび、それが光のように感じられる。さらには、自分がこれまで関わった人々が次々と思い出されてきて、自分と自分を取り巻く人間関係の網全体が光の海のように感じられる。これは一種の宗教的体験であり、その後の人生を心の奥深いところから支えてくれます。

そうした体験をしたからといって、その仕事が経済的に成功したり、社会的に広く認められるとは限りませんが、「あれは良い仕事だった」と思えることがあるのは、人生の醍醐味の一つです。